スポンサードリンク

【日常】社会人としての振る舞い

別れ

「元気な姿が見れて良かった。」

「元気でね。これから寒くなるから体に気をつけて。」

久しぶりの対面を果たし、別れが名残惜しいと言わんばかりの抱擁をして、エレベーターの⬇️のボタンを押してエレベーターの到着を待つ。

 

・・・と言うタイミングで、私の乗っていた1Fに向かうエレベーターの扉が開いた。

 

待機 

あ、このおばあちゃんがこれからエレベーターに乗って家に帰るのね。

と、私はすぐに4Fエレベーターフロアの状況を理解しエレベーター扉の<開く>ボタンを押して、おばあちゃんが乗り込むのを待った。

 

普段降りることのない4Fのフロアから眺める外景は、いつも見ている9Fとは異なり、隣接するマンションの壁に世界を阻まれ、空が狭く感じる。隣のマンションは築何年だろうか。20年は経っているかのようなくすんだグレーの壁に苔が我が物顔で根を張っている。

 

向こうから見たこっちのマンションは、どのように映っているのか。

築2年のマンションだが、一日中隣接しているマンションに光を遮られて、こちらも苔の宝庫となっている可能性もある。

9Fと比べて、晴天にも関わらず、薄暗さが残る4Fのフロアーは空気も滞留している気がしてきた。

一刻も早く1Fに向かいたくなった私は、おばあちゃんが乗り込んで来るのを心待ちにしていた。視線をフロアーに戻すと、おばあちゃんは4歳位になろうかという可愛い女の子に話しかけている。孫なのだろう。別れが名残惜しいくて仕方がない。という気持ちを全面に出して、女の子が半泣きしながら甘えている。

おばあちゃんは、甘えられた嬉しさと帰りそびれて困惑している気持ちが混在した複雑な表情で別れを告げようとしているが、女の子はいつまで経っても別れる気配がない。

 

判断

私は、<開く>を押し続けているが、おばあちゃん達は、エレベーターが開いていることに気づいている様子はない。

ひょっとしたら、エレベーターのボタンを押したのは別の人ではないか?と思ってしまうくらい、エレベーターに無関心の様に思えるが、話を聞いている限り、これからおばあちゃんが帰ることは間違いない。

私はこのまま、<開く>ボタンを押し続けて乗り込んでくるのを待つべきか、それとも、>閉<ボタンを押して下に行くべきか。

しかし、>閉<ボタンを押した瞬間、おばあちゃんがこちらを振り向いて、目があったまま扉が閉まり気まずい思いをするのは避けたいため、もう暫く待つことにした。

 

事故

女の子は、相変わらず、おばあちゃんを引き止めている。おばあちゃんも半ばあきらめた様子で、女の子をあやしている。女の子はおばあちゃんがすぐには帰らないと悟ったのか、補助輪をとった自転車に乗れることを得意げに披露しはじめた。

女の子は安定感のない乗り方で、そこまで広くないエレベーターフロアの周りを周りはじめた。おばあちゃんは壁にぶつかりそうな女の子を見守っていた。

私も危なっかしいなぁと思いながら見ていると、通路の角にハンドルをぶつけて、倒れてしまった。

「あー大丈夫!!」

女の子のママとおばあちゃんが駆け寄ると、泣くまいと頑張っていた目から涙が流れてきて、女の子は大泣きを始めてしまった。

幸い出血する様な大きな怪我ではなかったが、ママとおばあちゃんはエレベーターを一瞥する事もなく女の子を連れて家の中に入ってしまった。

 

解放

フゥ〜、私は名も知らぬ女の子が大した怪我もなかったことに安堵したと同時に、何のために4Fに留まっていたのか、幸せ家族小劇場を見せられたとこで何の感動も生まれない。

このわずか数秒がとても無駄な時間に思え、突如襲ってきた虚無感から逃れる様にエレベーターの>閉<ボタンを押し、1Fに向かった。

 

さて、何のために1Fに降りたんだっけ。。